白菜の海で

土の恩恵を存分に受け、そこに根ざしながら空高く飛ぶ術を知っているハトのようなひとりの農夫が私の町には住んでいる。巣に返ってきたハトを迎えるとき、うまくなった農作物を前にするとき、今まさに舞の途中であるといった笑いを彼は顔に浮かべる。土地と空とは、それぞれがそれぞれを映した鏡像だ、ということを鳥が空を通して知っているように、ハトをやる農夫は土を通して知っている。何百キロ飛んで返ってきたハトを見るとそれがどんな旅だったのか全てわかる、と言う土に活かされ空を知る彼こそが、空と土地の間にある一枚の鏡なのかもしれない。 (「ハトを、飛ばす」本文より抜粋)

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