平成19年11月19日
町田さんへ


お久しぶりです。
町田さんが話していた、「時間」と「音」について、少し書きたいと思います。

今、僕が一年で一番好きな音色が聞ける季節なんです。それは、秋の虫の音です。(少し、季節が移ってしまいましたが、この文章を書き始めたのはそういう時期でした)私の家の南側は一面田んぼで、背中には杉の山を背負っています。幹線道路からは距離があり、車が走る音はほとんどしません。静かですよ。秋の虫の音はそれこそ、何百年何千年も前の人々も同じように聞いていたはずです。そしてその人達がまた、さらに何百年何千年も前の人々の事を思わせるとても不思議な感覚にさせられる音色だと、虫の音を聞くといつも思うのです。いろいろ考えながら、その虫の声を聞くたびに幸せな気分になってしまうのです。

時間の事について感じる事は、目で見る時間と耳で聞く(感じる)時間の感覚の違いがあるということです。そのふたつの違いを僕なりに大きく分けて、分かりやすく説明する為に、太陽暦と太陰暦の話をしたいと思います。
太陽暦はすなわち光(目)で感じる、圧倒的な感覚時間(西洋的)だと思うんです。それに比べて、太陰暦は月(東洋的)ですから光というよりは、闇です。すなわち視覚に頼れない、耳(聞く、感じる)の感覚です。日本は古くから太陰暦で生活していました。それはやはり月の重力の影響で潮の満ち引きや地球上の水分が動かされているからかもしれませんね、農業や漁業のように、昔から自然と共に暮らしていた人々の時間は今でも太陰暦で生活しているみたいです。農家の人たちは、旧暦のカレンダー(こよみ)で、今でも種まきや竹や木の伐採やいろんな行事を行っています。
面白いのが、「こよみ」でね、例えば啓蟄といって大地が暖まって冬眠していた虫が出てくるっていう日があるんだけど、その虫が出てくるだろうってことで、それまで家の中に閉じこもっていた、農家の人たちがぱーあっと外に出てくるわけ。僕の家からだと本当にそういうのが面白いくらい観察できて、虫じゃなくって人が出てきてるって、こよみどおりでおかしくって。人が出てくると、田んぼの準備が進んで、田んぼに水が張られたりして、そしたらもう田植えがあって、成長して行くっていう時間が感じられるんだ。これは、人間が主体の時間ではないよね、植物や虫と同じように人間が本来もっている自然時間だね。そんな感じで、こよみの中には自然と共に生きて来た人々のすばらしい知恵がいっぱい詰まっていて、とても楽しいんです。

それが、自然のサイクルとは無関係な社会システムで生活している現代人になっちゃうと、完全に太陽暦(自然時間ではない)で生活している。その事が、やはり今の環境問題やこころの問題にも何らかの影響があるのかもしれないね。僕が思うには、日本の風土や日本人のこころの感覚には、太陰暦の時間感覚があっている様な気がします。もう一度、自然のサイクルにあった東洋的な時間を感じてみるのがよいのではないでしようか。そこに、いろいろな時間に関する事やこれからの生き方のヒントがあるのだと思うのです。

それから家にいると、なんだかすぐお茶の時間になってしまうんです。つい、お茶の時間にしてしまいたくなるような環境なんでしょう、そういう「お茶の時間」っていうのは、それこそ自然の時間なんでしょうね。そういう時間を感じると、やはり幸せな気分になります。職人さんはほとんどきっかりにお茶の時間をもちますが、あれはリズムの問題で、やっぱり時計の時間とは少し違うんだと思います。余談だけれど、自然に近い生活をしていると占いが当たるんです。うちにはテレビはありませんが、時折ラジオをつけていると、星の動きで占う占いの番組が毎朝あって、こう「今日は掃除をするとよいでしょう」とか、「今日はいらいらするので注意しましょう」とかっていっているんですね。それがなんだか、あたることが多いんです。自己暗示じゃないですよ。うちは朝が早いですから、その占いが始まる前に、もう掃除をやっちゃっていたり、すでにイライラしていたりするんですよ。だから不思議だな〜と思うんです。やはり人間も自然の一部だからそういう宇宙全体の動きに左右されるんですね。だから昔の戦国時代とかに、諸葛孔明みたいな軍師(戦略をたてたり、占星術、気象学などあらゆる学問に優れる)がいて、今日はこんな感じの日だから、こういう作戦でという風にやると、おそらく誰しもが自然に近い生活をしていたはずですから、きっと相当な確率で戦略が当たったんだと思います。しかし自然と離れた生活が長くなった現在では、やっぱり人為的に何もかもが行われていますから、いろんな事が複雑になるのかもしれませんね。

町田さんが言っていた「時間」だったり「音」の感覚は、先に言った虫の話やこよみの話のように太陰暦の闇を聞く(感じる)感覚が、とても大切な事だと思うんです。あとは、あまり深く考えず一日のうちに、10分でも20分でも自然の事、そのものに意識をグーと持っていく事が本当に大切で、そうする事で見えたり感じたりする事がいっぱいあると思います。そういう事の積み重ねが生活の中での、本当の豊かさと、幸せを与えてくれるのだと思います。

僕の家はお風呂が家の離れにあるので、夜、お風呂から戻る時に、毎回夜空を見上げて星を見るんです。その度に、「きれいだな〜」と思いながら、やはり昔の人も同じように夜空を見上げて同じ思いをしたんだろうな〜と思うと、とても幸せな気分になるんです。

ところで、町田さんは今自分の家を作るのに、木を伐採したり、ユンボで地面をならしたり、いろいろやっているみたいですね。僕は、その事がこれからの町田さんにとって、とても重要な経験になるのではないかと思っております。木を切る事、ひとつとっても自分でやると、木の事を改めてしっかり考えますよね。そうやってひとつひとつ自分でいろんな事を、確認しながらもう一度、その場所(自然の中の空間) の事や家を建てるという事を、体で感じてほしいですね。なんでも僕に出来る事は協力しますから、がんばってください。

それではまた、宜しくお願いします。


過去のやりとり

平成19年10月04日 町田から高山英樹さんへの手紙を読む >
平成19年08月22日 高山英樹さんから町田への手紙を読む >
平成19年07月21日 町田から高山英樹さんへの手紙を読む >