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おに、おわす

「お前は、鬼か?」わたしの口から鉛のような言葉がどすんと落ちて、「お前は、鬼か」あなたの口から寂寞たる言葉がぽろりと落ちる。
「お前はわたしが鬼に見えるのか?」
「ああ、わたしにはお前がそう見える」
「こんな暗闇に、鬼のわたしが見えるのか?」
「ああ、そう見える」
「暗闇に、もの見るお前が鬼とは違うのか?」
「さぁ、そうかどうかはわからない。わたしはそういうことが最近つくづくわかならなくなってきた。そういうお前はどうなんだ、暗闇に、ものが見えるお前はどうなんだ?」
「わたしもそういうことが最近つくづくわからなくなってきたんだよ」
「おまえは鬼か?」
「いや、わたしは鬼じゃない」
「それならわたしも鬼じゃない」
「なぜそう思う?」
「なぜそう思う?」
「いや、わたしは鬼なのか。鬼を見るわたしが鬼でなかったのなら、どうしてわたしが鬼を見ることができようか」
「それなら、わたしも鬼なのか」
「そうか、それならおまえは鬼だ」
「そうか、それならおまえも鬼だ」
「いやいや、わたしは神なのだ」
「ずいぶん勝手ないい分だ」
「ずいぶん勝手ないい分だけれども」
やーやー、われこそは神だ、とその鬼は言った。
やーやー、われこそは鬼だ、とその神は言った。

おん、だいた

あの山が、人にとっての風景なのではなく、自然にとってのひとつの出来事なのだとする感性があったのなら、きっと、それは全体としてありありと見えるのだろう

ただ、現代人である今の私には、それがどうしても見えない

それでも、山と山とのあいだにそれが座していることが体感としてわかるのだから、センサーとしての私の身体は、そんなに鈍いものではないのかもしれない

なんなら、だいたら、いいのよ
だって、
あなたもわたしも
あったものではないのだから

そう言ってくれているのが、私に、聴こえる
いや、私は、そう聴こえたふりをしている

だいたら、だいた
おん、だいた
互いにだいたら、あなたもわたし
どのみちひとり
だいたら ぼっち

暴力的にも、そんなふりをして
わたしは、垂直的な時間の中で
あなたを、とっぷり、抱いている

しかし、感じてみるとその熱量は、わたしにとってはあまりにも膨大すぎて御(ぎょ)しがたく
恐れをなしたわたしの一部が、それを名前として閉じてしまう

敬意を評して「おん(御)だいた(代田)」

そして、それは大きく捉えれば間違った行為ではなかったのだろう、と、我に返った、私は、そう思う
場を開きっぱなしにする癖のある私に「閉じるのも優しさだよ」と言ってくれたのはSさんだった

またいつの日か暴れるその日まで
せめてそれまでどうか健やかで

山あいのあいまに、ごろねん、ねんね
静かに、静かに、おねむりなさい
いつかまた暴れられる、その日まで